ニュース原文
- IETF Datatracker, A Verifiable-Credential Binding for AI Usage Preferences: Expressing Grants that Lift AIPREF Preferences: https://datatracker.ietf.org/doc/draft-wallace-aipref-grant-binding/
- IETF Internet-Draft, draft-wallace-aipref-grant-binding-01: https://www.ietf.org/archive/id/draft-wallace-aipref-grant-binding-01.txt
AIクローラーや生成AIの学習利用に対して、コンテンツ権利者が「この用途は許可しない」「この用途は許可する」と機械可読に示す仕組みとして、IETFではAIPREF(AI Preferences)の議論が進んでいます。
ただし、AIPREFだけでは扱いにくい場面があります。Webサイト全体としてはtrain-ai=disallowedを表明しながら、特定のAI事業者には契約に基づいて学習利用を許可するようなケースです。
2026年8月6日に更新されたInternet-Draft「A Verifiable-Credential Binding for AI Usage Preferences」は、このような個別許諾をVerifiable Credential(VC)として表現する案を示しています。なお、この文書はIETFの正式標準という位置づけを持たない、著者個人のInternet-Draftですので未確定な論点を多く含みます。
何が提案されているか
このドラフトの中心は、AIPREFのPreferenceとGrantを分けて扱う考え方です。
Preferenceは、権利者がコンテンツに付けるデフォルトのシグナルです。たとえば「このコンテンツはAI学習に使わないでください」という広い意思表示を表します。
Grantは、そのデフォルト設定を特定の相手に対してだけ上書きする証明です。たとえば「このAI事業者は、この資産を、この期間、AI学習に使ってよい」という許諾を、署名付きの資格情報として表します。
AIPREFで示された利用方針に対して、個別の許諾を後から確認できるようにする仕様提案と理解できます。
どんな仕組みか
Grant Credentialには、Grant自体の識別子、発行者であるGrantor、対象資産のハッシュ、許諾を受けるGrantee、許可されるAIPREFカテゴリと値、有効期間などが含まれます。
ポイントは、対象コンテンツそのものをCredentialに入れず、コンテンツのハッシュで結び付ける点です。これにより、Grantを提示しても対象コンテンツ自体を漏らさず、受け取った側は手元のコンテンツとハッシュが一致するかを確認できます。
発行者識別子としてdid:webのようなDIDを使えば、受け取った側は公開鍵を解決して署名を確認できます。これでGrantor(発行者)に毎回問い合わせずに、許諾の存在と内容を確認しやすくなります。
流れとしては、権利者がコンテンツにAIPREFのPreferenceを付け、個別に許可したい相手へGrant Credentialを発行します。AI事業者や監査者は、必要な場面でそのGrantを提示します。受け取った側は、署名、対象資産、用途、相手、有効期間などを見て、AIPREFの拒否設定を変更するかどうかを判断します。
まだ議論中のこと
このドラフトは完成仕様というより、議論のための提案です。本文でもいくつかの未解決論点が挙げられています。
まず、この仕組みをどこで標準化するのかという重要な論点があります。AIPREF Working Groupは、添付方法、伝送などをスコープ外としてきました。そのため、実際これはどのように実装されるのかについてはほぼ決まっていないようです。
VCが最適なコンテナなのか、Granteeの本人性をリクエスト時にどう確認するかも今後の検討対象です。
DID/VC Mediaとして注目したい点
この提案は、AIとDID/VCが交差する分かりやすいユースケースです。VCはこれまで、本人確認、資格証明などの文脈で語られることが多くありました。しかし、AIPREF Grant Bindingは、デジタル資産の利用許諾やAI学習データの権利処理にもVCを使えることを示しています。
特に重要なのは、VCが「誰が何を持っているか」だけでなく、「誰が、どの資産について、誰に、どの用途を、いつまで許可したか」を表せる点です。AIクローラーの制御、データライセンス市場、学習データ監査が発展するほど、署名と監査可能性を持つ許諾証明が必要になります。

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