タイの電子取引開発機構(ETDA)が、2027年に向けたデジタルID戦略でVerifiable Credentials(VC)とデジタルウォレットを中核に置いています。
Biometric Updateは2026年9月7日、ETDAが「Big Move 2027」の重点領域としてデジタルID、AIガバナンス、中小企業支援、デジタルプラットフォーム規制を掲げていると報じました。
タイの取り組みは、2025年から2027年を対象とするDigital ID Framework Phase 2の流れにあります。ETDAは2025年3月の公式発表で、Phase 2の目的として政府サービスへのアクセス拡大、本人なりすましや詐欺の抑止、法人向けDigital ID、官民データ連携、外国人向けDigital ID基盤、サービス提供者の監視・リスク評価を挙げています。
単なるログインの仕組みではなく、証明書や資格情報を安全に発行・提示・検証する段階へ議論が進んでいることが印象的でした。
VCとデジタルウォレットはそれを支える技術要素として位置づけられています。
Digital ID 2.0で扱う対象が広がる
ETDAは、Digital ID 2.0で対象を個人の本人確認から、法人、外国人などへ広げようとしています。
Biometric Updateの2026年6月の記事では、タイのDigital IDシステムは税、住民登録、医療など1,797件以上の政府電子サービスに接続済みとされています。ThaID、Tangrat、Mor Prom、Paotang、NDIDなどのプラットフォームを通じた累計利用も拡大しています。
Phase 2で焦点になるのは、利用範囲の拡大です。法人では、代表者や委任関係をデジタルで確認する必要があります。外国人では、タイ国内の官民サービスを利用する際に、信頼できる本人確認の入口が必要になります。その他にも、身体や年齢的にディスアドバンテージを持つ層のユーザーも、介護者や代理人との関係性をどう確認するかが課題になります。
法人代表権、在留資格、医療上の代理関係、教育資格など、場面ごとに異なる属性を証明できる仕組みが必要です。
VCとウォレットが担う役割
VCは、発行者が証明した情報を、利用者がウォレットに保持し、必要な相手へ提示できる仕組みです。検証者は、発行者、署名、失効状態、提示条件などを確認します。
タイの戦略では、VCインフラ、信頼リスト、デジタル文書ウォレット、サービス提供者の評価・登録制度が関係します。Biometric Updateによると、ETDAは学業成績証明書を対象としたVCの実証や、外国人の本人確認に必要な信頼機関の参照情報を連携する実証も計画しています。
学業成績証明書は、VCの初期ユースケースとして相性がよい領域です。教育機関が発行した成績情報をウォレットで保持し、提出先が発行元や改ざんの有無を確認できれば、紙やPDFの確認よりも処理を標準化しやすくなります。
一方で、ウォレットに入った証明書を受け入れるには、検証者が発行者を信頼できる必要があります。そのため、どの発行者、ウォレット、検証者、サービス提供者を信頼するかを整理するTrust Frameworkが重要になります。
信頼リストとサービス提供者評価
ETDAの計画で注目すべき点は、VCそのものに加えて、信頼リストやサービス提供者の評価・登録制度に踏み込んでいることです。
VCは暗号署名で改ざんを検知できます。ただし、署名が正しいだけで、業務上受け入れてよい証明とは限りません。検証者は、発行者が適切な機関か、どの保証レベルで発行されたか、失効していないか、提示された属性が目的に合っているかを判断する必要があります。
信頼リストは、この判断を支える基盤です。信頼できる発行者やサービス提供者を一覧化し、検証者が参照できるようにします。特に越境利用では、相手国の発行者やウォレットをどの基準で認めるかが課題になります。
Digital ID 2.0は、技術導入だけで完結しません。ルール、監査、リスク評価、責任分界を含めた制度設計が必要です。
ASEAN域内の相互運用を見据える
今回の動きは、タイ国内の行政DXを越えて広がる可能性があります。
世界銀行は2026年8月20日から21日にかけて、バンコクで「15th Global Digital ID & Verifiable Credential Summit and Interoperability Testing Event」を共催しました。イベント案内では、政府、標準化団体、ウォレット開発者、発行者、検証者、依拠当事者が集まり、デジタルウォレットとVCの実装・相互運用を扱うと説明されています。
越境VCで最初に扱いやすいのは、比較的範囲を定義しやすい資格情報です。世界銀行のMahesh Uttamchandani氏は、モバイル運転免許証、職業資格、事業者資格を第一歩として挙げています。これらで信頼と運用経験を積んだ後、国民IDのような機微性の高い資格情報へ広げる流れが考えられます。
ASEANでは、労働、観光、教育、金融、物流など、国境をまたぐ本人確認や資格確認の需要があります。タイがVCとDigital ID 2.0を国内制度として整備できれば、地域のデジタル取引基盤にも影響します。
まとめ
タイのETDAは、2027年に向けたデジタルID戦略でVC、デジタルウォレット、信頼リスト、サービス提供者評価を重視しています。Digital ID Framework Phase 2では、個人の本人確認に加え、法人、外国人、脆弱層、官民データ連携まで対象が広がります。
VCは、学業成績証明書の実証に加え、職業資格、モバイル運転免許証、事業者資格など、再利用性の高い資格情報から導入が進む可能性があります。これらはASEAN域内の越境利用にもつながります。
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